「教えすぎない」指導が生徒の力を伸ばす サピックス講師の試行錯誤

サピックス 溝端宏光
サピックス 溝端宏光
授業の様子=SAPIX提供
授業の様子=SAPIX提供

 こんにちは。SAPIX小学部の溝端です。前回のコラムでは、私が算数の授業を担当していること、この仕事を始めた当時に上司から「教えすぎるな」というアドバイスをくり返しもらっていたことをお伝えしました。それを踏まえて、今回は私が教師として大事にしていることから話を始めたいと思います。

ある中学校教師の至言

 「教師」という言葉を辞書で調べると、「教え導く者」という意味が出てきます。ですが、私が勝手に追記して良いのであれば「さりげなく教え導く者」としたいのが本音です。

 というのも、「○○しなさい」と教師が指示したことを生徒にその通りに実行してもらうだけでは、問題解決能力を鍛えることにはつながらないからです。それどころか、「先生の指示通りのことをしていればよい」という、いわゆる“思考停止状態”になってしまう危険性すらあります。

 時系列が前後しますが、私がこの仕事を始めてから十数年たち、中学校の先生とお話しする機会が増えたころに、ある学校の先生が「教師は子どもたちの後ろを頑張ってついていくくらいがちょうど良い」というお話をされたことがありました。まさに至言だと思います。子どもたちに「自分で考えた」「自分たちの力で成し遂げた」と感じてもらう。このことが子どもたちの自己肯定感を高め、ひいては考える力を伸ばすことにつながるからです。

 もちろん、「放置」するわけではありません。ときには教えたり、さりげなくヒントをあげて軌道修正したりすることは必要です。その際に、教師が前面に出すぎないことが大事なのです。後ろから支えるイメージが一番近いかもしれません。

授業をする溝端宏光さん。子どもの力を伸ばすには、「教えすぎないこと」が大切だという=SAPIX提供
授業をする溝端宏光さん。子どもの力を伸ばすには、「教えすぎないこと」が大切だという=SAPIX提供

子どもを待つ、それが難しい

 冒頭で触れた通り、私は算数の授業を担当していますが、授業の進め方について上司や先輩からもらったアドバイスで強く印象に残っていることが二つあります。

 一つは、「教えすぎるな」というアドバイスに関連した「大事なのは与える情報量とそのタイミング」という話です。ヒントが多すぎると考える余地が無くなるが、少なすぎると子どもたちは諦めてしまう。ヒントを出すタイミングについても同様で、ヒントを早く出し過ぎるのも良くないが、出し渋りすぎると子どもたちが理解できないままになってしまう。

 だから伝える内容をできるだけそぎおとした上で、ギリギリのタイミングを狙って伝えることが大事ということでした。これはわかっていても実行するのが難しいのですよね……。どうしても教えたくなってしまう。そこを我慢して「待つ」のが大事なのですが、これがとても難しい。しかも、待ちすぎると今度は「今回の授業の内容はよくわからなかった」と言われてしまいます。

 実際、私は塾講師の仕事を始めてから30年たった今でも、ギリギリのところを模索して毎回の授業で試行錯誤を繰り返しています。おそらく、この仕事を辞める日まで試行錯誤は続くのだろうと思っています。

 もう一つの印象に残っていることは、「教師が賢く見える授業ではなく、生徒が賢く見える授業をすべきだ」という話です。これは正確に言えばアドバイスではなく、話してくれた方がご自身の指針としていることだったのですが、先ほど紹介した、ある中学校の先生の「教師は生徒の後をついていくくらいがちょうど良い」という話と同じく、教師が前面に出すぎてはいけないという戒めとして、強く印象に残っています。でもこれも難しいのですよね……。いまだに「うまくできた」と思える日は少ないです。

溝端宏光さん=SAPIX提供
溝端宏光さん=SAPIX提供

親子関係をよくするためにも大事なこと

 ここまで、「教師として大事なこと」に触れてきましたが、実はこの話は「大人が子どもに接する際に大事なこと」と範囲を広げても通用します。つまり、保護者の方がお子様に接するときにも、ぜひ気にしていただきたいポイントなのです。

 「うまくできそうにない……」そうした声も聞こえてきそうですね。

 最初からうまくできないのは当然です。30年も塾講師を生業にしている人間がいまだにうまくできないのですから。ただ、今回紹介したポイントを少し気にするだけでも、徐々に良いサポートができるようになっていくはずですので、ぜひ実践してみてください!

 加えて、プラスイメージを含む声掛けを意識することも大事ですね。これができれば、親子関係がより良くなるだけではなく、わが子の能力を伸ばすことにもつながっていきます。この話は次回のコラムで詳しく触れたいと思います。

入試直前の不安とうまく付き合うには?

 首都圏ではこれから、埼玉、千葉、そして東京・神奈川の一般入試が順次始まっていきます。

 この時期の受験生とその保護者の方に伝えたいのは、「今までの努力を信じ、最後までその努力を続けてほしい」ということです。コツコツ頑張り続けることが、自分の力を高める唯一の方法であり、不安を解消する唯一の方法だからです。

 この時期、受験生は不安になりやすいものですし、保護者の方にとっても「入試で良い結果を出してほしい」という気持ちが強く出るあまりに我が子のできていないところが気になりやすいものです。そんな方には、次の言葉を贈りたいと思います。

 どんなに勉強を頑張っている受験生でも、「もう完璧だ。何も心配なところは無い!」という状態にはならないものです。なぜなら、勉強では一つのことを理解すると次のレベルの内容が出てくる。どんなに頑張っていても「できないこと」「わからないこと」は無くならない。それが勉強というものだからです。入試が近づくと、「あれができていない」「これがわからない」と不安になるかもしれませんが、それが勉強というものだと割り切って、不安と上手に付き合っていきましょう。

 このメッセージは、ある学校の先生が「勉強に完成無し」と題して入試直前期の受験生に向けて語ってくれたものです。

 「不安と上手に付き合う」

 これは、すべての受験生とその保護者に、心に留めておいてほしいことです。

 入試直前の時期だからこそ、現段階の「できないこと」「わからないこと」を数えるのではなく、「できるようになったこと」を数えましょう。その上で、今までやってきた努力を最後まで続けましょう。

 入試当日、学校の門をくぐるとき、「これだけの努力をしてきたのだから大丈夫だ!」と自分に言い聞かせられるように……。

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