女子御三家の一角 女子学院の校長が考える「先回りしない教育」

大沢瑞季
大沢瑞季
文化祭の名称は「マグノリア祭」。校舎前に植えられたタイサンボクの英名にちなんでいる=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影
文化祭の名称は「マグノリア祭」。校舎前に植えられたタイサンボクの英名にちなんでいる=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影

 校則や制服がなく、自由で活気ある校風で知られる女子学院中学校・高等学校(東京都千代田区)。生徒の自主性を尊重する学校だが、鵜崎創校長は「実はとても手厚い学校です」と話す。女子学院が考える本当の手厚い教育とは?【大沢瑞季】

校則がないだけじゃない 真の自由を目指す学校

 ――自由なイメージが強いですが、実際どのような学校ですか。

 ◆確かに制服はありませんし、生活規定も「胸に校章を付けること」「上履きをはくこと」などいくつかしかありませんから、自由な学校と取りあげられることが多いです。

 でも学校として伝えたいのは、「精神的な自由」です。やりたいことを何でもしてよいといった規則のない自由ではなくて、自分自身が外に向かって開かれている状態であり、自分の思ったことを貫いていけること。それが本当の自由だと考えています。

 ――そうした力はどのように培われるのでしょうか。

 ◆一人一人が大切な存在だということ、そしてそれぞれに違う個を生かして、どういうふうに自己実現をして、社会に還元していくか。自分のなすべきことを見つけること。日常生活の中で、それを生徒たちに繰り返し伝えています。

 本校がキリスト教の女子校という守られた安全な場所だということも大切です。ここでは、自分の思っていることを表現しても構わない、それが許される場所です。

 もし他者の意見が自分の意見と違っても、否定せず、「あなたはそう思っているんだね、でも私はこう思っている」と捉えるよう伝えています。

校庭から見た校舎=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影
校庭から見た校舎=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影

 最初からできるわけではなく、6年間を通した練習でできるようになるのです。中2と高3の宿泊行事では、話し合いの時間がもたれますが、ディベートのように相手を説き伏せるのではなく、相手の意見を聞くことで自分の視野を広げていくような話し合いの方法を学びます。毎年テーマは異なるのですが、今年は中2が「共に生きる」、高3が「賜物(たまもの)」でした。

受け身の生徒は難しい

 ――おとなしいお子さんは、向いていないのでしょうか。

 ◆入学すれば、皆発言できるようになっていきます。全員が自分の意見を持っていますが、その声が大きいか、小さいかの違いです。声の大きな人がいたときに、その横で小さな声を発することができるかどうか。往々にして、社会ではできないことのほうが多い。

 小学校でも、自分の意見を正直に言ってみたら「何言ってるの?」と言われるケースがあったかと思います。でも、ここではそういうことはありません。どんな意見であっても、「そう考えているんだね」と一旦受け止められます。引っ込み思案な生徒でも、「自分の意見を言って大丈夫なんだ」とわかってきます。

 ただ、友達から「なんでそう思うの?」と聞かれますから、感情的に「ただそう思うから」では済まなくなる。自分の胸の内を整理して、発信する努力をするようになります。

 ――合わないお子さんのタイプはありますか。

 ◆本人が受け身で、何かしてもらうことをひたすら待つのであれば難しいかもしれません。

 でも実は、生徒が受け身かどうかというのは保護者の姿勢が関わってくることも否めません。生徒は周囲の環境によって変わることができる。でも保護者が「この学校に入ったら、こういう出口を用意してくれるだろう」と期待していると、うまくいかないケースがあります。

職員室前の廊下。教員と生徒が話しやすいようテーブルと椅子が並んでいる=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影
職員室前の廊下。教員と生徒が話しやすいようテーブルと椅子が並んでいる=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影

 私は、本校はとても手厚い学校だと思っているんです。分からないところがあれば、教員に質問に来る生徒が多いですし、夏休みの特別講習など、表に見えるようなものはやっていませんが、生徒に1対1で対応するという意味では、本当に手厚く指導をしています。

 また、何から何まで先回りして道を整えるような学校ではありません。先回りして、全て用意すれば効率的です。生徒の目標を最速で達成するにはいい方法かもしれませんが、それでは生徒が育たない。手を出してあげるほうが楽ですが、それをあえてしない。先生たちは本当に忍耐強いですよ。簡単には答えを与えず、生徒がそこにたどり着くまで待ちます。

中学のうちは学び方を丁寧に教える

 ――宿題はどれくらいありますか。

 ◆中学の間は、かなり宿題が多いです。小テストで合格点が取れなければ、取れるまで追い掛け回されますし、補習も頻繁に行われています。学び方をかなり丁寧に、根気強く教えます。高校生になると自主的な学びに転換していくので、それまでに自ら学ぶ力をしっかりつけておきたいのです。

 定期テストの成績は、クラスとしての目標点は示しますが、順位は出しません。ただ成績表はありますから、他との比較ではなく、自分の力が伸びているのかどうかを把握してほしいと思っています。

 塾に通っている生徒は少なからずいますが、中学に入学したら、親や塾の助けに頼らず、自分で勉強する力を養っていけるようにと指導しています。

 ――普段の授業についても教えてください。

 ◆道徳の授業がないかわりに、中1~高3まで聖書の授業が週1回あります。歴史的なキリスト教の位置づけや、他宗教との違い、また世界史に関する知識も豊かになりますから、幅広い学びができます。

登校して生徒がすぐ目にするのは、2024年度の聖句「探しなさい。そうすれば、見つかる」=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影
登校して生徒がすぐ目にするのは、2024年度の聖句「探しなさい。そうすれば、見つかる」=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影

 英語は、中1からオールイングリッシュで行います。英文法に関しては週1時間だけ日本語で学びます。今は中学1年の時点で、英語力に差がすごくあるんですよね。しかし、発表など共同作業が多いので、できる生徒にとっては教えることで学びになります。全員が中3でディベートができるようなレベルを目標にしています。

 理系教育は、実験が非常に多いです。手を動かし、リポートもたくさん課されますから、生徒は悲鳴をあげています。

 学ぶのが好きな生徒が多いので、できる生徒に刺激を受けるわけです。小学校までは、どちらかというとリーダーシップをとることが多かった生徒たちがたくさん集まっているので、中1の最初のころは大変です。でも次第に「彼女は私にないものを持っている。でも、私にはこれがある」と自分の良いところを発見していきます。

ゴールから逆算するような教育はできない

 ――進路指導はどのようにしていますか。

 ◆進学先は年度によってばらばらです。ある一定の大学へ送り出すための指導はしません。何を学びたいのか、将来どうしたいのかというところを中心に進路指導します。

 中高の6年間で何が花開くか分かりません。高3の時点で、答えを持っていなくてもいいと思っています。人生はそこから先、何十年も続きます。ゴールから逆算して、今ここで何をやらないといけないというような教育はしません。

 卒業生を見ても、アナウンサーから医師になったり、理系に進んだと思ったら検事になっていたりと、分野を横断して活躍している人が多くいます。

 本校では、高2まで理系・文系の区別はほぼありませんし、高3になっても受験科目だけでなく家庭科や体育などの授業もたっぷりあります。

鵜崎創校長=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影
鵜崎創校長=東京都千代田区の女子学院中学・高校で2024年4月、大沢瑞季撮影

 人生のどこかで転換点があって、目標が変わる可能性があります。新たな夢を持った時に、いつでもそちらに踏み出すことができる。それが女子学院の教育の特徴でもあります。

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