校則は二つだけ?日本一の東大進学率を誇る「筑駒生」の取り組み
服装も髪色も自由。校則は二つだけ!?――。国立大附属校で唯一の男子校である筑波大附属駒場中・高、通称「筑駒」。日本一の東大進学率を誇り、2023年度の卒業生は約160人のうち69人が現役合格した。「天才集団」と呼ばれる筑駒生の取り組みについて、北村豊校長と真梶克彦中学副校長に聞いた。【近藤綾加】
発展的な学び支える「ケルネル田んぼ」
――例年、4割を超える生徒が東大に進学しています。どのような生徒が多いのでしょうか。
◆勉強だけに限らず、寝食忘れて何かに打ち込む子が多いですね。学校行事も含め、とことんやらないと気が済まない子が多い。例えば、文化祭で喫茶運営を担当した班の生徒は、自分たちで何度もコーヒー豆を焙煎(ばいせん)し、ブレンドして味の研究を重ねていました。コーヒー豆に関する本を買い、味の特徴や歴史を一生懸命勉強するんですよね。3日間で1万人以上の方が来場される文化祭は、生徒のこだわりが詰まった行事の一つ。一般の方に筑駒の雰囲気を一番よく知っていただける機会だと思います。
――いわゆる「ガリ勉」タイプではなく、好きなことを探求して学びにつなげていける子が多いのですね。
◆そうですね。本校近くの駒場野公園内に「ケルネル田んぼ」という水田があり、総合的な学習の一環として中学1年と高校1年で水田学習をします。この学習は、単なる稲作体験だけで終わらないのが良いところ。温室での育苗からもみ殻を取るところまで一連の米作りを通して、環境問題や稲作文化の歴史を発展的に学びます。生徒の中には、自宅で実際にチャーハンを作ったり、非常に細かくスケッチしたりする子もいます。
教室には生徒の意見書き込む特注黒板も
――「天才集団」と呼ばれる筑駒生ですが、普段の授業はどのように進められているのでしょうか。
◆授業で入試問題を解くことはしません。入試問題だけをやっていると学問の基礎は身につかないんですよね。教養主義を伝統としていて、全教科で基礎を深く学び、その結果として大学の入試問題が解けるということにつながっていきます。
また、生徒が自分の考えや意見をたくさん書き込めるように、各教室には教室の端から端までの広さの特注の黒板を設置しています。分からないことは分からないとはっきり意思表示しますし、授業が終わっても、理解できるまで繰り返し質問に来る生徒も少なくありません。「分かる」ことへのこだわりの強さを感じます。
――授業中の生徒たちの雰囲気はいかがでしょうか。
◆非常ににぎやかです。授業中にしゃべってはいけないという雰囲気はなく、教員の問いかけに対する生徒たちの反応はすごく良い。あちこちの教室から拍手や歓声がよく聞こえてきます。黙って聞いていなさい、見ていなさいということはなく、一般の学校とは少し雰囲気が違うかもしれません。隣の席同士で教え合う姿も見られます。
文章化された校則なし、育つ自制心
――まさに学校目標の「自由闊達(かったつ)な校風」ですね。筑駒には「ガムをかまない」以外は校則がないというウワサもお聞きしますが、本当なのでしょうか。
◆そうですね。服装も髪色も自由です。都市伝説ではないですが、ずっと引き継がれているのは「ガムをかまない」「上履きを履く」という二つだけ。ただ、この二つですら文章化されたものはないのです。
校内でのスマートフォンの使い方も、生徒自身に考えさせるようにしています。毎年、学年ごとに実情に合わせ、「放課後のみ使用可」「授業中のみ不可」などと決めます。そして、最終的にはルールは設けずに生徒の自主性に任せます。明文化された校則はありませんが、こうした過程を経て生徒たちは自然と自分をコントロールする力が育っています。ルールは本人たちも納得しないと効果がないですよね。与えられたルールに従うのは楽かもしれないけれど、なぜそのルールが必要なのか想像力を持ってほしいのです。
筑駒での学びの成果、地域に還元
――地域の子どもから大人まで参加できる「筑駒アカデメイア」が人気です。筑波大学、卒業生、教員、生徒が一丸となって行う公開講座やワークショップは、どのような狙いがあるのでしょうか。
◆国立大学の附属校には、地域のモデル校となるような先導的教育の取り組みをすることがミッションの一つとして示されています。その一環に地域貢献があり、07年度から世田谷区との共催で筑駒アカデメイアが始まりました。08年度からは目黒区の後援も加わっています。
アカデメイアでは、小学生を対象に本校の教員と中学科学部・高校化学部の生徒が実験教室を開催したり、筑波大と本校の教員が学校周りの樹木について解説したりする講座もあります。23年3月の公開講座には、一般の方約350人に参加いただきました。生徒には、筑駒での学びの成果を地域に還元し、社会に貢献できる人材に育ってほしいと考えています。