3世代にわたって通う家庭も フェリス女学院が模索する学び

大沢瑞季
大沢瑞季
社会科教諭を経て、4月から現職に就いた阿部素子校長=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影
社会科教諭を経て、4月から現職に就いた阿部素子校長=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影

 神奈川の女子御三家の一つ、フェリス女学院中学校・高等学校(横浜市)は、3世代にわたって通う家庭もいる伝統校だ。変化する時代にあっても守るべき伝統と、新しい時代を見据えた教育について、阿部素子校長に聞いた。【大沢瑞季】

醸成されてきた伝統

 ――守るべき伝統と新しい教育のバランスについて、どのように考えますか。

 ◆ミッションスクールとして創立され、キリスト教信仰に基づく教育を実践してきました。また、各教科の先生たちが情熱をもって生徒に学問の醍醐味(だいごみ)を伝えています。その「伝統」に誇りを持っています。

 一方で、時代の変化に伴い取り入れるべき新しい観点、新しいやり方も、つねに模索する必要があると考えています。

 時代が変わっていく中で、どんなふうに生徒たちの「賜物(たまもの)」を磨けるだろうか。これからの時代に必要とされる学びとは何か。常に見直して、新しい学びを取り入れたいと思っています。

 ――自由な校風で知られています。

校舎外観=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影
校舎外観=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影

 ◆生徒を管理する学校ではありたくないです。一人一人がきちんと考えることができるはずだし、自分で判断できる。そういう力を育むことを昔から大事にしてきた学校です。

 一方的に「こうしなさい」とは言いたくない。生徒もそれでは納得しませんしね。しかし、全くの放任かというと、教員は結構密に相談にのっています。生徒を信じて任せますが、同時に生徒との対話も大切にしています。

 「本当の自由って何だろう」と考えてもらいたいんです。何でも自分の思い通りにすることが自由かというと、そうではないですよね。

 教育理念「For Others」につながるのですが、本当に自分が自由になるというのは、自分を中心にする考え方からも解き放たれて、他の人のために働けることだと考えています。それができる生徒を6年間かけて育てていきたいと思っています。

探究・グローバル教育プログラムを拡充

 ――どんな生徒さんが多いのでしょうか。

 ◆いろいろな個性を持った生徒がいるのがフェリスです。活発な生徒も静かな生徒も、それぞれ受容されるのがいいところです。

 強いて言えば、学びたいという思いを持っている生徒が多いです。何でも自分たちでやろうとするし、本気でやろうとするのがフェリス生らしいです。

 元々、人前に出るタイプではない生徒も、周囲の生徒に刺激を受けて「私もやってみようかな」と手を挙げることはよくあります。

 係や委員もみんなすごくやりたがります。高1の広島研修旅行では、旅行委員をやりたい生徒が40人以上いたこともあります。しらけた感じがないですね。

図書館にはビーズクッションが置いてあり、生徒はくつろぎながら読書することができる=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影
図書館にはビーズクッションが置いてあり、生徒はくつろぎながら読書することができる=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影

 ――新しい教育とはどのようなものを取り入れようとしているのでしょうか。

 ◆一つは、探究的な学びです。以前からフェリスでは、各教科の先生たちが、生徒の知的好奇心を刺激するために、思い入れを持って学究的な授業をしてきました。

 同時に実験・観察・文献調査などを通して主体的に学ぶ、仲間との議論によって自分の考えを深める、リポート・論文・プレゼンにまとめて表現する、といった探究的な学びが、伝統的に各教科の授業や行事のなかで行われてきました。

 例えば、高2の選択授業「社会特講」では、1万2000字の論文をずっと昔から書かせてきました。大学のゼミのように机を丸く並べて、発表や議論をするこの授業は、戦争と平和をテーマに自分で問いを設定して論文を書くのですが、進路決定にも影響を与え、「今の自分の原点は社特」という卒業生も多いです。

 今後は、新しい時代を見据えつつ、フェリスの学びにさらに磨きをかけていくために、中高一貫の利点を生かしたアカデミックスキルズの体系的な育成・教科横断的な学び・外部機関との連携・ICTの利活用を推進していきます。

 今年4月には、そうした教育をけん引する部署として、教育企画部を新設しました。カリキュラムを改訂しますし、高大連携も進めていきます(2024年11月に星薬科大学、北里大学と高大連携協定を締結)。

 グローバルなプログラムも積極的に進めていきます。中学生には12日間のオーストラリア研修、高校生には1週間のシンガポール研修を導入しました。語学だけじゃなく、多様性や探究的な学びが広げられるものにしていきたいです。特にシンガポールでは、現地の伝統あるキリスト教主義の女子校との交流が実現でき、とてもうれしく思っています。

多様な進路もフェリスらしさ

 ――進路が多様です。

生徒がおしゃべりをしたり、お弁当を食べたりする中庭=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影
生徒がおしゃべりをしたり、お弁当を食べたりする中庭=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影

 ◆人数は少ないですが、芸術系に進む生徒が、毎年必ずいます。理系文系はほぼ半々です。「For Others」を実現する形として、医学部を目指す生徒も多いですね。でも、学校として、ここを目指しなさいということはありません。

 自分が好きで、深く学びたいものに出合って、それを他者のため生かせるというのが一番いいと思います。それぞれの賜物を最も生き生きと輝かせられる道を目指してほしいので、進路は多様でいいのです。

 ――卒業生も多様なジャンルで活躍しています。

 ◆「卒業生に聞く」というキャリア教育のプログラムでは、幅広く進路を考えてほしいので、いろいろな卒業生を招いています。医師や大企業勤務から、NPO代表、農業、子ども食堂経営など、本当にさまざまです。

 いわゆる社会的な地位の高さではなくて、どういう問題意識を持って何のために働いているのかというところに、生徒も関心があるようです。

 講演後の感想文を読むと、「『For Others』な生き方をしていると感じた」などと書いてあったりします。教育理念が生きる指針になっているのです。

女子校で培われるリーダーシップ

 ――女子校で学ぶ意味をどう考えていますか。

 ◆生徒を見て普段から感じるのは、自分を出せる居心地のよさです。女子だけの空間で、性役割を考えずに人として本音で向き合う。それは純粋に楽しそうですし、そうして真剣な話ができる、かけがえのない仲間を得ていきます。

 また将来、社会に出た時に女子校で学んだ意義は大きいと考えています。女子校で培ったリーダーシップは、問題解決の仕方や情報共有の方法が、いわゆる男性リーダーのものとは異なっています。クラブ活動などを見ても、連帯しサポートし合う傾向を感じます。

校舎の前に立つ阿部素子校長=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影
校舎の前に立つ阿部素子校長=横浜市のフェリス女学院中学・高校で2024年6月、大沢瑞季撮影

 まだまだ社会では、男性がリーダーシップを取ることが多いですが、女子校で培ったリーダーシップの在り方は、現状のオルタナティブになり得ると思っていて、それが広がることにとても期待しています。

Related Posts

関連記事

Share
CONTACT
記事の感想を送る