女子校は「本来の力」発揮できる 東京・豊島岡の校長に聞く
「真面目」が褒め言葉になる学校――。豊島岡女子学園中学・高校の竹鼻志乃校長は、自身も卒業生として、コツコツと努力を積み重ねる大切さを学んだという。基礎基本を大切にしながら、STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育やグローバル教育などにも柔軟に対応する同校の魅力を聞いた。【大沢瑞季】
コツコツと積み上げられる子が向いている
――どのような生徒が多いのですか?
◆私はこれまで、在校生を一言で表すと「真面目」と言ってきました。最近は、「真面目」という言葉がネガティブに捉えられることも多いようですが、真面目に努力する人を笑うような雰囲気は、絶対にあってはいけないと思うし、そういう子が日の目を浴びるような学校でありたいと思っています。
学校の教育方針の一つが「勤勉努力」。コツコツと努力し続けられるような子が合っていると思います。圧倒的な基礎力をつけることが重要だと思っていて、定期考査を完璧にこなすのが目標です。卒業生を見ていると、ある程度、定期考査の成績と大学入試の結果はリンクしています。
また、いろんな分野で力を発揮できるイベントを用意しているので、「どれかやってみよう」と意欲を持ったお子さんにはいい環境だと思います。生徒の3割は、入学時に本校が第1希望ではありません。でも、親御さんが「ここの学校でよかったじゃない」「これやってみようよ」と背中を押してあげているお子さんは伸びています。
「受験に関係ないからやらない」ではなくて、「いろんなことをやり切りました」という子が第1希望の大学に合格している印象です。マルチタスクをこなす力は将来必ずいきます。いろんなことにチャレンジしていたら、高校2~3年生になると「私はこの分野」と自分の力を発揮できる場所がわかってくる。進路選択においても、社会における自身の役割を考えて、進むべき道を決めることができます。
6割8分が理系を選択
――2024年度入試で東大に22人、医学部に121人が現役合格するなど進学実績が注目されています
◆6割8分が理系を選択しています。勉強でも行事でも、常に効率的で効果的な方法は何かを考えながら生活しています。
運動会などの学校行事は、生徒が企画運営をしますが、「よりみんなが満足する運動会とはどういうものか」「楽しいだけでいいんだろうか」などと考え、最適なやり方を考えます。
勉強もクラブ活動もだらだらとはやりません。午後5時半に閉門するので、教員もそれまでに帰ります。全員参加のクラブ活動も、限られた時間のなかでいかに効果的に活動するかを考えるのが当たり前になっています。
――宿題など課題が多いというイメージがありますが、実際はどうですか
◆授業を第一に考えてほしいと思っています。宿題は、生徒にもよりますが1日1~2時間で終わる量です。塾に頼らずとも、学校の指導だけで難関大に受かっている生徒がたくさんいます。
小テストの結果がふるわないと、呼び出されます。英語や数学は最初につまずくと後の6年間が厳しいです。特に本校は文系でも高3まで数学を学ぶので、つまずかないよう手厚く指導しています。
中学1年生の通塾率は、2割から2割5分。学校の課題をこなした上で、余力があって塾に通うのはいいですが、塾メインで勉強しようと思うなら本校に来ないほうがいいです。学校と塾の課題に追われ、アップアップして両方まわっていない生徒が実際にいます。
海外大進学も目指して
――STEAMや探究、グローバルなどの教育にも力を入れています
◆6カ年のカリキュラムで取り入れています。中1、2では年2回、学年ごとにテーマを設定した「T-STEAM:Jr」というモノづくりに全員が取り組みます。うまくいかなかったら、「じゃあ、どうすればいいのか?」と試行錯誤する。一人だと諦めてしまうことも、友達と議論したり、アイデアを出し合ったりして乗り越えていく姿が見られます。
グローバル教育は、ニュージーランドの提携校への3カ月留学やハーバードなど米国名門大学で学ぶボストン10日間研修など、多数のプログラムを希望者に提供しています。 ボストン研修に参加した生徒は、そこで目覚めて海外大に進学したいと思ったようで、24年春にはカナダのトロント大と東京大どちらにも合格した子も出ました。
――4教科入試に加えて、25年度から算数・英語資格入試(算数の得点を2倍したものに、英検の取得級によるみなし得点を加えた合計点で判定する)を導入します。どういう思いからですか
◆算数・英語資格入試は若干名の募集です。他校と違って、英語が得意な生徒に特別クラスを用意しているわけではないし、これまでの本校の教育路線を変更するわけではありません。
ただ英語が得意な生徒は、他の教科に勉強時間をかけられるという意味では、アドバンテージがあります。本校ネーティブ講師による少人数の英語取り出しレッスンがあるので、英語力が下がらないようにそのレッスンを受けることができます。
卒業生が財産
――行事などの活動についても教えてください
◆自慢したい取り組みは、中学2年生がやっている「卒業生インタビュー」です。社会に出た卒業生の職場にお邪魔したり、学校にきてもらったりして、やりがいや今後の目標などをインタビューします。2024年度は73人の卒業生が協力してくれました。
今年で11年目になる取り組みですが、リピーターが多く、過去11回参加してくれた卒業生もいます。本校は卒業生が財産です。医師でも、開業医や勤務医だけでなく、ユーチューバーをやっている医師もいます(笑い)。
いろいろな卒業生の言葉を聞いて、「では、自分はどうするか」と考えるのです。医学部や難関大へ進学した卒業生が多いので、その影響は受けると思います。「私にもできるかもしれない」って。大人が勉強をやれと言ったってやらないけれど、「先輩のようになりたい」という憧れは一番の原動力になります。
本校のいいところは、全員参加のクラブ活動で先輩と後輩の仲が良いこと。先輩のメッセージが恩送りのように後輩につながって背中を押す。後輩も、先輩に追いつけ追い越せといった感じで、非常に良い関係です。
女子を甘やかさない
――竹鼻校長のことについても教えてください。民間企業の研究所に勤務後、1993年に理科教員として着任され、現在に至っています
◆娘が2歳の時、夫の米国留学に同行し、教員を2年間休職しました。その際に向こうの大学に通ったのですが、すごく刺激を受けました。若い時に行ったら、もっと刺激を受けたに違いないという気持ちから、校長として研修や留学プログラムを拡充してきました。
ちょうど副教頭になった年には、娘が中学受験しました。小学校高学年になり、学童もなくなると家でテレビばかり見ているので、「塾でも行けば?」と私が勧めました。中高一貫の女子校に進学したのですが、高1の終わりごろ、突然留学に行きたいと言って、高2から米国の高校に編入しました。「戻ってくるところがあるなんて、甘い」と日本の高校はやめさせました。その後、米国の大学、英国の大学院で学び、今は社会人になっています。
――自身も卒業生ですが、女子校の良さはどう感じていますか
◆女子校の良さは、女子を甘やかさないところです。「女性として~」「女性の視点で~」なんて、学校では全く言いません。一人の人間として、どう考えるかです。
女子校は、本来の力を発揮できる安心な場所です。異性の目があったら「こんなことしたら恥ずかしい」という気持ちが生じることがあります。例えば、体育の授業で汗かいて髪振り乱す姿を見られたくないとか。でも女子校なら、なりふり構わずやりたいことをやれます。
また女子だけで全てをこなす必要があるので、運動会で重いものを持ったり、テント張りも自分たちでやれるようになったりします。女子校ゆえのデメリットは、感じてないです。