首都圏の中学入試がスタート 埼玉・栄東の現場から
午前8時過ぎ、埼玉県のJR東大宮駅から長い、長い、親子の列が続いた。約750メートルの道のりを、学校職員らが誘導する。
「本命」ではなくとも、多くの受験生が首都圏で初めての中学入試に挑む「栄東中学校・高等学校」。私の息子もその一人で、長い列に加わった。
1月10日から3日連続で入試が実施され、初日の10日は、学校ホームページによると定員80人に対し5187人(1月7日現在)が受験する。
試験会場は「栄東」以外に近隣のホテルや系列校など5カ所にわたる。試験得点の開示があり、実力の「現在地」を知るために合否にかかわらず受ける人が多いとされる。
先輩ママのアドバイスで「前泊」
東京・神奈川では2月1日に受験がスタートする。1月入試は「前受け」とも呼ばれ、埼玉や千葉などで実施される。
さかのぼること約1年。受験を終えた1学年上の子どもを持つママ友からアドバイスを受けた。
「前受けは、夏には前泊するホテルの予約を取ったほうがいいよ。すぐに満室になるから」
私は東京都内在住で、栄東までは片道約1時間。当日朝に家を出ても間に合うし、そもそも通学圏内でなければ、受験は厳しい。
だけど、受験の日にどんな交通トラブルに見舞われるか分からない。だから前泊した方がよい、同じように考える人が多いから早く予約した方がよい、というアドバイスだった。
その通りに、JR大宮駅近くのビジネスホテルに前泊した。
息子は夜10時にベッドに横になったが、なかなか寝付けないまま朝7時半に起床。「眠たいし、なんか頭が痛いよ」。ぶつぶついいながら、前日に買っておいたパンと牛乳を平らげた。だが、表情はさえない。
こちらの方が不安になるが、「大丈夫、大丈夫」としか言えない。
緊張の息子に母は……
普段はおちゃらけてばかりの息子も、さすがに緊張しているようだった。鉛筆や消しゴム、受験票などの持ち物を確認してホテルを出る。電車に約10分揺られ、東大宮駅から大勢の受験生とともに、栄東まで歩いた。
学校に着くと、握手を交わしたり、抱きしめたりして、子どもたちを試験会場へと送り出す保護者が手を振っていた。
我が子は素っ気ない。「じゃあ」とも言わず、ちょっとだけ振り返って試験会場へ。
「落ち着いてね」
「最初に、名前を書くんだよ」
「時間が余ったら見直してね」
聞いてもいない背中に向かってつぶやいてしまう。
受験塾に入ってから3年あまり。成績が振るわず、真面目に机に向かわない息子にいらだってばかりの日々がよみがえる。
その間に、私と同じ背丈にまで成長し、声変わりした息子。試験は始まったばかりなのに涙が出た。
頑張ってね――。子どもを見送る親の気持ちはみんな同じだ。【生野由佳】