英国の私立校なぜ日本へ続々? サピックス国際教育事業本部長に聞く
英国の名門私立校(パブリックスクール)が、続々と日本に進出している。いずれも学費はかなり高額だが、世界トップクラスの教育環境をうたい、注目を集める。海外大進学やボーディングスクール(寮制学校)留学に詳しい、SAPIX YOZEMI GROUPの高宮信乃(しの)・国際教育事業本部長は「最近の保護者はリスクを取ることをいとわない」と解説する。背景を聞いた。【大沢瑞季】
英国を代表するパブリックスクールのトップ9校「ザ・ナイン」の一つ、「ハロウ」の系列校「ハロウインターナショナルスクール安比(あっぴ)ジャパン」(岩手県八幡平市)が2022年8月に開校した。さらに23年は、9月に「ラグビースクール」の系列校「ラグビースクール・ジャパン」(千葉県柏市)、「マルバーン・カレッジ」系列校「マルバーン・カレッジ東京」(東京都小平市)が相次いで開校した。ラグビーはハロウと同じく「ザ・ナイン」の一つで、3校とも共学だ。
高宮さんは相次ぐ開校について、「最近の保護者は、我が子の教育に関してリスクを取ることをいとわない方が増えたという印象があります。子どもが小さい時から、インターナショナルスクールに入れたり、こういった新しい学校ができるとすぐに入学を検討したりするご家庭が増えています」と解説する。
リスクとは、多くのインターナショナルスクールは、学校教育法が定める「学校」(1条校)ではないため、日本の学校卒業資格を得られないことを指す。「日本の大学に行ける確証はないですし、相次ぐ英国名門校の日本校は、開校したばかりで、教育の質や進学実績が未知数でもあります」
そうした一定のリスクを取っても、インターナショナルスクールに進学を希望するのはなぜか。
「背景には、日本における英語教育の遅れがあります。また、国際社会における日本の立ち位置が年々厳しくなっている状況に危機感を覚え、英語で学ぶ環境に子どもを置いて選択肢を広げてあげたいという気持ちもあるのではないでしょうか」
高宮さんは今後も、保護者のこうしたニーズを受けて、インターナショナルスクールの開校は増えるだろうと予測する。実際、来年以降の開校情報も耳にするという。
高度人材の獲得に一役
日本はシンガポールや香港などアジア地域に比べ、専門的な知識や技術のある海外からの「高度人材」の受け入れが遅れている現状がある。
高宮さんは、こう指摘する。「『高度人材』を海外から日本に呼び寄せるには、世界トップクラスの進学実績を誇るインターナショナルスクールの整備が欠かせません」
「マルバーン・カレッジ東京」のマイク・スペンサー校長は「東京は世界有数の国際都市。日本駐在を考える高度外国人材の方々にとって、いい選択肢となれるような学校を目指したい」と話す。
国内にトップインターナショナル校が少なく、子どもをグローバル人材に育成する環境が整っていないことが、高度人材の受け入れの壁になっている背景もうかがえる。
中国の富裕層も取り込み?
一方、日本への相次ぐ英国名門校の進出は、中国の教育事情があるといううわさもある。
中国政府は、英語教育を制限したり、小中学校で外国の教科書使用を禁止したりするなど、規制が年々強化される。高宮さんは、「英語教育が制限され、中国にあるインターナショナルスクールには、帰国子女や政府高官の子どもしか入れないなどの事例があるようです」と話す。
そのため、中国の富裕層の取り込みも狙って、隣国の日本に相次いで進出したのではないか。教育界では、そんな臆測も流れる。
一方、取材に応じた「ラグビー」「マルバーン」両校の校長は「そういった背景はない」と、明確に否定している。