理系進学が半数に迫る私立女子校に学ぶ 理系脳の伸ばし方
理工学系に進む女子の割合が、海外と比べてまだまだ少ない日本。だが、私立の女子中高一貫校「田園調布学園」(東京都世田谷区)は、理系を選択する生徒が5割弱を占める。思わず数学が好きになってしまうという授業をのぞいてみた。【大沢瑞季】
2月末にあった中学2年の数学の授業。生徒たちは、直径2センチの1円玉を、縦4センチ横201センチの長方形のケースに最大で何枚並べることができるかという「パッキング問題」に挑戦していた。
どの班も200枚までは入るが、その先が続かない。
「うまく詰めると、もう1枚だけ入れられます」。数学科教諭の細野智之さんがヒントを出す。
「隙間(すきま)が空いちゃうと嫌だよね。上の隙間をグッと詰めたらどうなる?」
「こっちの方が入るかな」
もっと1円玉を入れようと試行錯誤する生徒たち。しばらくすると、「201枚入りました!」と歓声が上がった。
「では、これを計算でもやってみましょう」。円の外接や三平方の定理、ルートの計算など、中学数学の総合的な知識を駆使して、実験結果を計算でも確かめてみる。
中学2年の打林晴夏さんは笑顔で話した。「手を動かしながら実験すると、計算の結果が理解しやすくて楽しかったです」
こんなところにも数学が……
「正直、中学2年生には難しい内容かもしれません」
「でも、これを問題として解けるようになるのが目的ではないのです。数学を使えば、こんなことが分かるんだ。こんなところにも数学が関わっているんだ、と知ってもらえたら」
細野教諭は授業の狙いをそう語る。
こうした「パッキング問題」は、果物や缶の飲料水などを箱詰めするのに関係しており、数学を身近に感じられる一例だ。
田園調布学園では、数学だけでも年間6回ほど、こういった特色ある授業を実施し、「数学×美術」「数学×物理」といった教科横断型の授業も実施している。「数学×美術」の授業は、歯車の回転を利用して模様を描くデザイン定規を使う。子どもの頃、ぐるぐるとお絵描きをして遊んだ記憶がある人も多いのではないだろうか。
このデザイン定規にも数学が関係している。数式を立てることで、描く前からどんな模様が描けるかが分かるのだ。それを実際に計算した後で、描いた模様を何かに見立てて美術作品にする。
「子どもの頃、何気なく遊んでいたおもちゃのなかにも、数学が隠れているんです」
具体例を大切に
「数学って何のために勉強するんですか」。細野教諭は、生徒からよく尋ねられたという。だから、具体例や身近な事例を大切にしている。教科書ベースの授業でも、導入を工夫する。
例えば、比例・反比例の授業では、コンビニの電子レンジでお弁当を温める時間を例に挙げる。「1000ワットで30秒なら、700ワットでは温め時間はどれくらいになるかな?」と問いかける。ワット数と温め時間にどんな関係があるのか考えさせてから、授業に入ると、生徒の意識が変わるのだという。
理系人材のニーズ高まる
IT系など理系人材のニーズは社会的にも高まっている。医師や薬剤師といった資格やデータサイエンスなど理系の高い専門性があれば、就職が有利になり、結婚や出産を経ても仕事が続けやすい――などと考えて、子どもを理系に進学させたいと考える保護者が増えているという。
だが一方で、入学当初にとるアンケートでは、数学に苦手意識を持っている生徒が半数近くいる。
「真面目にやれば点数が取りやすい国語や社会と違って、算数は点が取りにくい。だから、苦手意識の払拭(ふっしょく)が最優先なんです」
そもそも、女子生徒と男子生徒では、数学の指導に違いがあるのだろうか。
数学科主任の長岡敬佑さんは「女子生徒は、理解して納得した上で前に進みたいという生徒が多いように思います」。
身近な具体例を示すことで、ストンと授業内容が腹落ちしやすいと考えている。「学んだことが、どういうところにつながって、どう活用できるのか。それが分かるような授業は、女子生徒が前に進める授業になるのではないでしょうか」
理系が半分「特別なことではない」
他にも、中高6年間で理科実験を150回行ったり、土曜日に理科の実験講座などを選択できたりする環境があり、理数のリベラルアーツが豊富に用意されている。
そうした体験の積み重ねによって、中学2年になると8割の生徒が、数学に苦手意識がなくなっているという。
理系進学の割合は、20年前は35%程度だったが、直近5年間は45~50%で推移している。2024年度入学者では、東工大や横浜国立大などにも総合型・学校推薦型選抜で合格する理系の生徒が出ている。
細野教諭は「『私は数学が苦手だから文系』といった消去法的な進路選択が少なくなったように思います。自分は何をやりたいのか考えた上で、理系進学が半分くらいになるのは、特別なことではないと思っています」と話す。