英国校「マルバーン」東京に IB教育、高度人材受け入れへ一役
作家のC・S・ルイスら著名人を数多く輩出した英国の名門校「マルバーン・カレッジ」の日本校が2023年9月、東京都小平市に開校した。英国インターナショナル校が相次いで日本に進出する中、世界各国の大学入学資格となる国際バカロレア(IB)教育を取り入れるのが、一つの特徴だ。背景を探った。【大沢瑞季】
マルバーン・カレッジは、1865年に英国ウスターシャー州で創立した伝統ある名門校。男女共学で、ボーディングスクール(寮制)と通学制がある。
海外校は、エジプト、中国、香港、スイスなどにキャンパスを開校しており、東京は7校目になる。日本校「マルバーン・カレッジ東京」の最寄りはJR国分寺駅で、都心から約40分。文化学園大の小平キャンパス跡地に開校する。近隣には、一橋大や東京学芸大などがある閑静な文教地区だ。
国内では、岩手県八幡平市に22年8月、英国式の「ハロウインターナショナルスクール安比(あっぴ)ジャパン」が開校した。23年9月には同「ラグビースクール」の系列校が千葉県柏市に開校した。この2校は、英国の伝統あるパブリックスクール9校を総称した「ザ・ナイン」に数えられる名門校だ。
相次ぐ英国名門校の日本進出について、「マルバーン」日本校のマイク・スペンサー校長は「偶然です。我が校に関しては、長い間計画していたもので、全く関係はありません。国際都市である東京に開校したいと考え、新型コロナウイルス禍に現在の跡地と出合いました」と説明する。
英語力よりも非認知能力を重視
初年度は、年長~中学2年を募集し、26年には年少~高校3年の計950人を受け入れる。
出願は通年で受け付けている。
幼児から低学年の場合は、グループで約1時間遊びながら、英語力や認知能力などを見る。1人ずつ教員との面接もある。
8歳以上は、学力テストではつかめない非言語的・数量的な推理力といった非認知能力を測るオンラインのテストと、英語の筆記、保護者と受験者の面接がある。
「年齢が低いお子さんに関しては、英語を学ぶ機会はこれからたくさんあるので、英語力よりも、非認知能力を測るテスト結果を重視しています」
必要に応じ、英語の補習も行う。
日本校は通学生のみ。学費は、年間250万~270万円で、国内の私立中高一貫校と比べると、かなり高額の設定だ。
英国でいち早くIB教育採用
カリキュラムは、国際バカロレア(IB)教育を採用する。
IBは、国際的に通用する大学入学資格で、世界159以上の国・地域の約5600校で採用されている。
英国のマルバーン・カレッジは、英国でいち早くIBを採用し、世界的にも優れた成績を収めている。
「IBは、探究的な学びがメインで、生徒を学びの中心に置くスタイルです。子どもたちは興味のある事をしている時が、一番学びのカーブが急だと教師は分かっていますから、それぞれの生徒が学びやすい方法を考えてサポートします」
高校2~3年生の2年間で取得するIBのDP(ディプロマ)は、難易度が高い。卒業試験に向けて6科目を学び、それぞれに高得点を取得しなければいけない。さらに、大学の卒論のようなエッセーと、社会貢献活動の実績も必須だ。
スペンサー校長は「IBは、得た知識をどう生かすかを重要視します」と説明する。例えば、第二次世界大戦を学ぶ歴史の授業では、どのような時にどのような理由で戦争が起こるのか、他の戦争の事例も踏まえて考察させるなどする。「IBは、好奇心が旺盛で、教員を質問攻めにするような生徒に向いています」
教員は、IBカリキュラムを教えた経験者が多く、世界各国から採用予定という。
少人数制で生徒をケア
学業だけでなく、社会的、感情的な発達を促す「英国式パストラルケア」(生徒に寄り添った指導)にも力を入れる。1クラス20人前後で、担任と副担任がつく。生徒と教員の比率は10対1で、生徒が自分にあったやり方やペースで学べるようにサポートする。
「少人数だからこそ、助けが必要なタイミングで手を差し伸べられますし、伸びるタイミングも見逃さずに背中を押してあげられます」
授業の進め方は、日本の探究学習に近く、講義とグループディスカッション、プロジェクト発表などを組み合わせている。中学・高校生になると、一人一人にチューターが割り当てられ、心の教育にも力を入れる。
「学業を向上させるのと同じぐらい、謙虚さや親切心、粘り強さ、視野を広く持つなどといった性格形成、自分の強みを生かせるよう個性を育むことを重要視します」
成績が基準に達していれば、英国など世界中のマルバーン・カレッジのキャンパスに留学することもできる。
高度人材の受け入れに一役
海外から、専門的な技術や知識を有する「高度人材」の日本誘致にも、同校の開校は期待がかかる。スペンサー校長は「東京は世界有数の国際都市で、各国の企業の支社がある。高度人材の方が、海外異動する際に、高い優先事項となるのが、子どもの教育環境と言われています」と話す。
だが、シンガポールや香港などアジア諸国に比べて、日本には海外の難関大に進学実績のあるインターナショナルスクールが少ないと言われる。
「我が校が、その選択肢となり、日本の高度人材獲得に一役買えたらうれしい。学びの環境が豊かになるので、できるだけ多様な生徒構成にしたい」
生徒は、海外からの駐在員を含む国際経験のある家庭の子息が大半を占めると想定する。