避妊法がコンドーム中心の日本 緊急避妊薬が重要な理由
避妊が十分でなかった場合、性交後72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を回避できる「緊急避妊薬」。世界では約90の国・地域で、医師の処方箋なしに薬局やインターネットで購入可能だが、国内では薬局での試験販売が昨年11月に始まったばかりだ。日本の現状は、世界からどう見えるのか? 国際NGO「国際家族計画連盟(IPPF)」のファドア・バハッダ・アラブ世界地域事務局長に聞いた。
緊急避妊薬「日本全国どこの薬局でも」
――現在、販売には医師の処方箋が必要ですが、性暴力や避妊の失敗による望まない妊娠を防ぐため、市販化を求める声が高まっています。厚生労働省が昨秋、全国145カ所の薬局で始めた試験販売の意義をどう考えますか。
◆日本は、海外に比べて避妊法の選択肢が少なく、コンドームの使用が大多数を占めます。事前に服用するピル(経口避妊薬)は、知識を得る機会が少ないため、日本ではあまり浸透していないのが現状です。
また、中絶に関する法律の規制が厳しく、配偶者の同意が必要だったり、費用が高額だったりする日本のような国においては、緊急避妊薬の重要度は特に高いです。なぜなら、緊急避妊薬は中絶を予防する最後の手段となるからです。政府は、その認識をもっと強く持つべきでしょう。
145カ所の薬局で購入できるということですが、各都道府県に数店舗ずつしかなく、到底、十分な数とは言えません。日本全国どこの薬局でも購入できる状態こそ、日本の女性が、自分の意思で健康や人生を選択する権利を保障することを意味するのではないでしょうか。
――産婦人科医などの団体は、薬の転売やコンドームの使用率低下による性感染症増加への懸念などから市販化に慎重な姿勢を示しています。
◆自分の健康を守るために薬を正しく使うことや、避妊をしっかりすることは、本来性教育などを通して若者にしっかり教える必要があります。
アプローチの仕方がいろいろある中で、経済的なメリットがどのくらいあるのかという議論に持っていくことは一つの大きな柱になるでしょう。
世界的な調査では、女性の家族計画のニーズに対して1ドル投資すると、平均120ドルの利益が得られるとされています。
具体的には、望まない妊娠を防ぐことで女性の健康状態が改善され、労働参加率が向上します。一人一人の子どもへの投資も増加するでしょう。このようなエビデンスを納得してもらうことが非常に大切です。
SNSでニーズ拡散して
――市販化に向けて私たちができることはありますか。
◆まずは、避妊の重要性を自ら実感しているような若手の国会議員への働きかけです。国会議員自身が、ニーズがあるんだと理解していることが重要です。
次に、社会的なムーブメント。必ずしも従来型の署名集めやデモでなくてもいいのです。政府は、日本が「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」の分野で国際的にどういう立ち位置にいるか、どう見られているのかというのを気にしていると思うので、SNS(ネット交流サービス)を活用したムーブメントは大事です。
ユーチューブには緊急避妊薬がいかに大事かということを訴えている動画がたくさん出ています。SRHRについても良質な動画があります。しかし、その多くが英語やアラビア語、フランス語やオランダ語。日本語のものはめったに見ないのが現状です。
まずは、意図しない妊娠によって女性がどう苦しんでいるのか、心身の健康不調や学業・仕事への影響など、具体的に拡散することが有効でしょう。
「避妊薬へのアクセス向上」 国連から勧告も
――SRHRにおける日本の現状を、世界はどう見ているでしょうか。
◆日本が議長国を務めたG7広島サミットで採択された首脳宣言には、主要7カ国(G7)諸国が包括的なSRHRのさらなる推進を約束することが明記され、対外的には先進的な取り組みをしているような印象を受けます。
一方で昨年1月、国連人権理事会のUPR(普遍的定期的レビュー)で、日本は、避妊薬へのアクセス向上や堕胎罪の撤廃、性的指向・性自認に基づく差別禁止に関するものなど36個の勧告を受けました。
日本政府がどう受け入れるか注目されましたが、「受け入れる・部分的に受け入れる」としたのは、「避妊薬(具)へのアクセス向上」「安全で適時無理のない金額での中絶医療へのアクセス」「中絶の配偶者同意要件廃止」のわずか三つのみでした。
対外的に見せている戦略と実情の乖離(かいり)に目を向け、発信していくことが大切です。【聞き手・近藤綾加】