保活スタート 「落選狙い」は悪か? 育休延長の厳格化に不安の声

近藤綾加
近藤綾加
仕事復帰か育休延長で悩む保護者は少なくない(写真はイメージ)=ゲッティ
仕事復帰か育休延長で悩む保護者は少なくない(写真はイメージ)=ゲッティ

 「悪いこと」で片付けられるのはふに落ちない――。

 2025年4月の保育所の入所申し込みが全国の自治体で本格化する中、保護者からは不安の声が上がる。

 意図的に不利な申請をして「落選」し、育児休業給付金を延長するケースを防ごうと、厚生労働省が審査を厳格化したためだ。落選狙いで「延長」した保護者のエピソードから、背景にある課題を探った。【近藤綾加】

揺れる保護者の本心

厳格化される育休の延長申請
厳格化される育休の延長申請

 千葉県に住む会社員の瑞希さん(仮名、40)は「落選狙い」で育休延長した後、長男を2歳4カ月で保育所に入れた。

 出産は、2021年12月。生後半年ごろから保育所の見学を始め、1歳になる22年12月入所を申し込んだ。

 事前に役所の担当者やママ友から「年度途中の入所はほぼ無理」と聞いていた。その言葉通りに希望園は満員で入れなかった。結果は淡々と受け入れた。

 23年6月まで半年間、育休延長された。だが、そのタイミングの復帰は、再び年度途中になる。保育所に入るためには、2カ月前倒しの4月入所しか選択肢はなかった。それが当然という雰囲気だった。

 だが、子育てに非協力的な夫には頼れず、「ワンオペ」育児での社会復帰に不安があった。少しでも、長く育休を取りたかった。何より、自分で歩けるようになり、車や電車など好きなものに興味を示すようになってきた子どもの成長を、もう少し近くで見守りたいとの思いが募った。

 「4月に入れないと後がないという消極的な選択で、今しかない子どもとの時間を失いたくありませんでした」

 一度は「当たり前だから」と4月入所を申し込んだものの、悩んだ末、再び役所を訪れて延長希望であることを伝えた。

 担当者に相談し、申請書の「育児休業の延長も許容できる」という欄に印を付けた。自治体独自のチェック項目で、「落選狙い」が把握できるようになっていた。

 その結果、2度目の入所申請も“希望通り”保留となった。1歳半での途中入所もかなわず、上限の2歳まで育休再延長が認められた。

自治体の業務負担大きく

 育休給付金の支給は原則1歳までで、保育所の入所審査で「落選」した場合は1歳6カ月まで延長し、さらに最大2歳まで延長が可能だ。延長には、給付金の延長を審査するハローワークに、保育所に入れなかった場合に自治体が発行する「入所保留通知書」を提出する必要がある。

 「落選狙い」は、育休延長を希望し、今は仕事復帰する意思はないのに、倍率が高く入所可能性が低い人気園のみに申し込むなどし、「入所保留」の通知を受け取ることを指す。

 自治体側は、人気園のみや、自宅から通うには不自由な遠方の園などを申請した内容に落選狙いを疑うが、入所審査は就労状況や家庭環境を点数化して決めるため、入所意思のない申請も同じ審査をする必要がある。

 また、自治体の担当窓口には「入所保留になるためにはどうしたらよいのか」という問い合わせも多い。これらの「落選狙い」に対応するため、自治体の業務が逼迫(ひっぱく)している状況があった。

ハローワークが延長の可否判断

仕事復帰し、子どもが保育所に入所すると、生活は一変する(写真はイメージ)=ゲッティ
仕事復帰し、子どもが保育所に入所すると、生活は一変する(写真はイメージ)=ゲッティ

 そこで、厚労省は24年3月、雇用保険法の省令を改正。25年度からは、「入所保留通知書」に加え、自宅や勤務先から申し込み園までの通園時間などを確認し、ハローワークが延長の可否を審査するようになる。合理的な理由なく自宅から遠い保育所を希望していないかなどをチェックし、「落選狙い」と判断した場合は給付金の延長を認めない。

復職後、時短勤務で収入減

 制度の厳格化に、「落選狙い」で延長した瑞希さんは「多くの自治体で4月入所を余儀なくされている現状にもっと目を向けてほしい」と呼びかける。「育休終了まで時間があるのに、もっと子どもを見たい気持ちを途中で諦めて入所させなければいけません。この現状をまずは見直すべきではないでしょうか」

 瑞希さんは2歳まで延長し、一時預かりサービスを利用した後、24年4月に長男を入所させた。

 「この2年間で、階段の上り下りだったり、でんぐり返りだったり、小さな成長を少しでも長く見守ることができて本当によかったです」。充実した親子の時間を過ごした育休期間だった。

 保護者の声を代弁する。「もっとそばにいたい」。その気持ちを押し殺して、前倒しで4月に復帰する。送り迎えを考えるとフルタイムでの復職は難しく、時短勤務を利用する人も多い。そして、出産前に比べて収入は減ってしまう。

 「わざわざ子どもを預けて保育料を払い、働いてもわずかなお金しか手元に残らない。復職しても給料が給付金とあまり変わらないならマイナスしか感じない。延長したい人が多いのも当然でしょう」

自治体の担当者は

 ある自治体の担当者は厳格化による「業務改善」に疑問を持つ。

 「『落選狙い』と判断されないように希望園を複数書いて内定した場合、辞退したり、本当に入所したい人が入れなかったりする可能性は残ります。結局はミスマッチでみんなが不幸な結果になるのではないでしょうか。自治体もハローワークとの情報共有が必要なら、作業負担は減らないのでは」と指摘し、「保護者に寄り添ったやり方なのか、疑問を感じます」と話す。

厚労省「落選狙いはモラルハザード」

 そもそも「落選狙い」は悪なのか――。

 厚労省雇用保険課の担当者は「延長し、給付金をもらわないと『損』と思う人もいるかもしれませんが」とした上で、「延長は1歳以降もやむを得ず入所できなかった人のための措置。落選狙いはモラルハザードにあたります。本来の趣旨を理解してください」とくぎを刺す。

 給付金の財源は、会社と労働者が支払う雇用保険料と一部税金だ。給付金を受給せず、勤務先の任意で休業期間を延長する場合は問題ない。

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