育休延長の厳格化は「解決につながらない」 識者、自治体負担も懸念

近藤綾加
近藤綾加
育児休業を延長するには
育児休業を延長するには

 2025年4月の保育所の入所申し込みが全国の自治体で本格化している。厚生労働省は、保護者が意図的に不利な申請で落選を狙い、育児休業給付金を延長するケースを防ごうと、審査の厳格化を決めた。

 一方で、保育行政について提言を行う任意団体「保育園を考える親の会」代表の渡辺寛子さん(47)は、厳格化に「根本的な解決にはつながらない」と警鐘を鳴らす。背景にある事情とは――。【近藤綾加】

自治体から改善求める声

 入所選考は、細かい基準に基づき就労や家庭の状況を審査し、保育の必要度の高い申請者から入所を決定する。育休延長希望者(落選狙い)の書類も同様の審査が必要で、自治体の事務負担が大きくなっている状況がある。

 現行では、育休の対象期間は原則、子どもが1歳になるまでと定めている。入所できず待機児童となった場合などは例外として1歳半まで延長、最大2歳まで認められ、給付金も受給できる制度となっている。

 そのため、人気園ばかりを希望するなどして「落選」し、育休を延長するケースが相次いでいた。

厳格化で変化すること

「保育園を考える親の会」代表の渡辺寛子さん=本人提供
「保育園を考える親の会」代表の渡辺寛子さん=本人提供

 厳格化を受けて「落選狙い」かどうかを判断するのは給付金の審査窓口となるハローワークだ。しかし、渡辺さんは「入所する意思がないのに人気園をわざと狙って申請書を出したかどうかは、そもそも人気園かどうかの事情を知る自治体にしか情報がありません。結局は自治体に負担がかかるのではないでしょうか」と疑問を投げかける。

 一方、延長を望む保護者にどのような影響が考えられるのか。

 毎年4月の入所で定員が埋まる場合も少なくない。渡辺さんは「都市部の場合、0歳児クラスは年度前半であれば入れる保育所も多くありますが、1歳児クラスは、まだ入りづらい状況が続いています。仕事復帰のために早生まれの子は、年度前半のまだ小さい時期に0歳児クラスに入園させなくてはならなくなります」と説明する。

 一方で、原則1歳のタイミングで入所できれば問題がすべて解決するわけでもなさそうだ。

 23年度の雇用均等基本調査によると、前年度に復職した男女のうち30.8%は「1年以上」取得していた。女性に限ると45.6%に上っている。つまり、すでに半数近くが延長制度を利用していることになる。

 渡辺さんは「原則1年とする育休の現行制度は、すでに現状に合っていないのです。家庭の状況に合わせて育休期間を選べるようにすべきです」と指摘。「延長制度があれば、納得のいく期間、家で子どもを見ることができ、1歳以降の入園のチャンスを待つこともできるのです」と述べ、復職したい時期に入所できるように制度を整える必要性を訴える。

「即戦力」への期待、復職ためらうケースも

こども家庭庁は4月に全国の自治体に対し、保育所の申込書に「育休の延長を希望する」などの項目を設けないよう通知した=大阪市北区で2024年6月14日、向畑泰司撮影
こども家庭庁は4月に全国の自治体に対し、保育所の申込書に「育休の延長を希望する」などの項目を設けないよう通知した=大阪市北区で2024年6月14日、向畑泰司撮影

 「落選狙い」の改善を巡っては、内閣府の地方分権改革に関する会議で、地方自治体からは、延長制度をそもそも廃止し、原則1歳までではなく、2歳まで育休給付の対象とする提案も上がった。

 延長を希望する理由はさまざまだ。「もう少し、子どもとゆっくり過ごしたい」という気持ちだけではない。体調を崩しやすい小さな子どもを預けての仕事復帰は、プレッシャーを感じている人が少なくない。渡辺さんの元にはさまざまな声が届く。

 特に第1子の場合は、「職場から出産前のような即戦力として捉えられ、その期待に応えられないかもしれないと不安になる声をよく聞きます。その結果、育休を延長し、2年取得した後、退職してしまうケースも珍しくありません」と説明する。

 「保育園を考える親の会」は、子育て世代をサポートし、約40年になる。企業に働き方の改革を求めるとともに、社会に理解を求めてきた。

厚生労働省がホームページで公表している育休延長に関するチラシの一部
厚生労働省がホームページで公表している育休延長に関するチラシの一部

 「仕事と子育てを両立できるような働き方を整えなければ、復帰後の子育てを難しくしてしまうでしょう。もう少し配慮が必要だと考えます。子育てへの理解を促進し、その文化の醸成が求められています」

 渡辺さんらは、保育行政のあり方についてこう語る。

 「今の時代、共働きや核家族化が進み、子育ては相当大変になったと感じます。だからこそ、育休を長く取ってでも我が子と一緒に過ごしたいという子育てにも仕事にも前向きな保護者の気持ちを大事にしてほしいと思います」

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