イモト「自分はほぼまる子」「エッセーは妊娠中の参考書」さくらももこ作品とともに

イベントに登場したイモトアヤコさん=東京都港区
イベントに登場したイモトアヤコさん=東京都港区

 漫画家・エッセイストさくらももこさん(1965~2018年)のカラー原画や直筆原稿役300点を紹介する「さくらももこ展」(来年1月5日まで)が東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開かれている。

 さくらさんのファンでお笑いタレントのイモトアヤコに、好きなキャラクター、子どもたちや子育て中のお母さんたちへのお薦め作品、さくら作品への愛を語ってもらった。

自身はほぼ「まる子」

 記者 展覧会場はどんな風に映りましたか?

 イモト 大好きなエッセーの原稿に囲まれています。興奮しています。

 記者 小学生の頃のエピソードで朝の読書タイムを挙げていらっしゃいました。大人になってからは、どんな時にさくらももこさんのエッセーを手にされているのでしょうか。

 イモト 小学生の頃から読み、小学生、中学生、高校生(時代)と事あるごとに「もものかんづめ」を1回だけじゃなくて、何回読んでも笑えるので、ちょっと落ち込んだ時に読むとすごく元気になっていました。都度、都度、読んでる感じですかね。普段、読書は私、仕事の移動中が多いので、飛行機の中で読むことも多いんですけど、さくら先生(の作品)は常に家の本棚にあって、気が向いたらパッと取っています。

 記者 どこにでもいそうで、また愛すべきキャラクターたちがたくさん登場するさくらさんの作品ですが、イモトさんご自身はどのキャラクターに近いですか。

 イモト ほぼ「まる子」ですね。まる子だと思って生きてきました。本当に親近感が湧きますね。(ある時期まで)自分はまる子なのかなって思ってました。なんでこんなに、さくら先生は、私のことを知っているのだろうと。(漫画やアニメで描かれた)毛糸のパンツを落とすお話とかですね。(私の場合は)毛糸のパンツではないんですけど、修学旅行でパンツを落としたこともありましたし、結構いろんなエピソードが、エッセーでいうと痔の話とかもそうですけど、私のことかなと(思えてしまう)。(だから)キャラクターとしては、まる子ですかね。

 記者 一番好きなキャラクターは?

さくらももこさんのエッセー原稿の展示<(C)さくらももこ (C)さくらプロダクション>
さくらももこさんのエッセー原稿の展示<(C)さくらももこ (C)さくらプロダクション>

 イモト こういう人になれたらいいなと思うのは、野口さん。野口さんはお笑いが好きで、いつも「ククク」と笑っている。流されない感じがしませんか? 自分を持っている感じがすごくして、自分が好きなものをちゃんと好きって言える野口さんはすてきだなと思って。(今回の)さくらももこ展で初めて知ったのが、「野口さん」って印象しかなかったんですけど、「笑子(えみこ)」と言うんですね。笑う子って書いてね! 本名、野口笑子と書いてあります。

車の中で揚げ物

 記者 さくらさんは「人間の幸せの根本は日常生活の中にある」と書いています。イモトさんが最も幸せを感じる日常のシーンは?

 イモト 日常、これよくやっちゃうんですけど、車を運転して、例えばスーパーに行って、おなかがすいていて揚げ物を買って、車に戻って、駐車場で我慢できずに、食べちゃうみたいな。車の中で揚げ物。油ベタベタの揚げ物を食べて、ちょっとハンドルで拭くみたいな、あの瞬間、あの瞬間は幸せですね! たまんないですね! 

 記者 ほんの小さなことに宿りますよね。

 イモト 宿るかも! 最近、電動アシスト自転車を買ったんです。子供の送り迎え用に買ったんですが、子供を保育園まで迎えに行って、後ろに乗せて、10分くらいの距離なんですけど、家までの道のりが結構幸せを感じました。車とは違う、風を感じながら、ちょっと会話する。なんかいいなと思いました!

 記者 息子さんと一緒に歌うとより楽しくなってくるのでは?

 イモト そうです、そうです。ABCの歌と「どんぐりころころ」しか歌えないんですけど。それをずっと繰り返してますね。

 記者 そういうところに幸せを見いだすことを、さくらさんからある意味、教わった?

 イモト 確かに(さくら先生の)全エピソードが日常ですもんね。日常にこんなに面白いことって転がってるんだってことですよね。みんな、どこかで見落としてるのかもしれないですね。実は(面白いことが)あるのかもということを気付かせてくれますよね。

野口さん紹介コーナー<(C)さくらももこ (C)さくらプロダクション>
野口さん紹介コーナー<(C)さくらももこ (C)さくらプロダクション>

子どもたち、お母さんたちへのお薦めは?

 記者 さくらさんも、イモトさんも、息子さんのお母さんです。その視点で作品を読み返したり、見直したりして、改めてグッとくるポイントはありますか?

 イモト 息子を妊娠している時に「そういうふうにできている」という、さくら先生が妊娠についてつづられたエッセーは(私にとって)参考書みたいでした。(さくらももこ展の会場では)息子さんとの共同合作の絵本(「おばけの手」)を見せていただきました。2人で作っている姿を想像する時に胸がギュッとなります。

 記者 妊娠中も、さくらももこさんのエッセーを手にされていた?

 イモト 育児書もいいと思うんですけど、不安な時ほど、さくら先生の「そういうふうにできている」を読むと、すごく楽になれました。

 記者 小学生の子たちにお薦めしたい、さくらさんの作品がありましたらぜひ教えていただけますか?

 イモト (映画第1作特別描き下ろし「ちびまる子ちゃん」の)「大野君と杉山君」は読んでほしいですよね。アニメ映画「ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌」もとてもいい。エッセーですと「もものかんづめ」。子どもでも読める本なので、初めて文章に触れるのにもいいかも!

 記者 子育てに奮闘する全国のお母さんたちにお薦めの作品は?

 イモト 「そういうふうにできている」は(出産や子育てを)経験していると、共感がすごくあると思います。さくら先生は帝王切開で、私もそうだったので一緒だと思いましたね。(帝王切開を)「切腹」と表現されていて、お笑いにできるっていいなぁと思いました。

 記者 イモトさんご自身の歩みと、さくらさんの歩みはクロスするというか、重なるところがありますね。

 イモト そうなんですよ。そういう感じがします。

さくら作品の魅力

 記者 イモトさんといえば旅で知られ、すでに世界121ヵ国に行っている。これから行ってみたい所はどんなところでしょうか。

 イモト さくら先生の旅行エッセーを読むと、この物を買いに行くとか、この絵を描いている人に会いに行くという旅のされ方をしていて、それがすごくすてきだなと思って。国というよりは、今、気になっているは(米国)サンフランシスコ郊外にある、マリーさんという靴職人のおばあちゃん。その人しか作れない靴があるんですよね。革靴。それを作りに行きたいな。「どこかへではなく、その方に会いに行く」。

さくらももこさんのエッセー「そういうふうにできている」
さくらももこさんのエッセー「そういうふうにできている」

 さくら先生もインドネシアの画家さんの作品がお好きで、その方に会いに旅をするエピソードがあって、旅とは本来そういうことなのかなとも思いましたね。

 記者 改めて、さくら作品の魅力、そこから見える人物の魅力は?

 イモト 私が人生で初めての共感というものをしたのが、(漫画やアニメの)「ちびまる子ちゃん」だったんで、そこからずっと好きで、やっぱり、さくら先生って、エッセーや漫画を読んで分かるんですけど、すごく自分のことを「俯瞰」に見る方だなって思っていて。俯瞰に見すぎることではなく、たまにグッと入る主観的な要素もあって、その俯瞰と主観のバランスが素晴らしくて、胸にグッとくるような作品もあれば、ゲラゲラ笑える(作品もあります)。そこのバランスが素晴らしいんだなって思います。実際にお会いしたことはないんですけど、趣味も似ているような感じもして、この痔の治療法とかね。

 そういうところも言ってくれるし、目に見えないものとかも、きっと信じようとする心があったりとか、いろんなものに感謝をされるような方なんだなと思いました。今は想像することしかできないんですけど、でも展覧会では、先生の体温、ぬくもりみたいなものを、私はすごく感じました。

 記者 「さくらももこ展」をどんな風にお薦めしたいですか?

イモトアヤコさん
イモトアヤコさん

 イモト (展覧会場に入る前に)さくらももこプロダクションの方が「本当にさくらももこのアトリエに遊びに来たような感覚になれる」とおっしゃっていたのが、すごく印象的でした。実際、見て回ると、先生のアトリエに遊びに来た、プラス、先生の頭の中を一緒に旅しているような感覚になりました。たぶん来場される方もそういう感覚になるでしょうし、好きなものに囲まれるっていうこのぜいたくな空間、それを好きな人と見るっていうのがとてもいいなと思っています。何度も見ても、また変わるところもありますし、癒やされに来たいなって思いましたね。

 記者 次はどなたと来たいですか?

 イモト 息子と来てもいいですよね。家族と来てもいいし、あと本当に私世代というか、特に女性同士もいいですね!

※YouTube「うるおうリコメンド」でイモトさんのインタビュー動画をご覧になれます。https://youtu.be/FyShZRD5O0I

イモトアヤコ

1986年、鳥取県生まれ。テレビ番組「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系列)などで活躍。2024年10月現在、121カ国を訪問したという。エッセー「棚からつぶ貝」「よかん日和」を出版。

 (取材・文=共同通信 藤原朋子 撮影=沢田勝)

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