「ギフテッド」特化のフリースクール開設 才能と成長支える伴走者に
生まれつき知的能力が高く、ある分野で突出した才能を発揮することもある「ギフテッド」。一方で、強いこだわりや繊細さを併せ持ち、周囲の偏見や無理解から不登校に陥るケースも少なくない。
そんな子どもたちの居場所を作ろうと、ギフテッドに特化したフリースクール「Lagoon(ラグーン)」が9月3日、東京・飯田橋にオープンした。代表の村松麻衣さん(28)もギフテッド特性を持つ当事者。だからこそ「その子の特性をしっかり見て、成長を支える伴走者でありたい」と話す。
日本の支援は始まったばかり
ギフテッドは、贈り物を意味する英語「ギフト」が語源。特定の学問だけでなく、芸術性や運動能力など複数の領域で優れた先天的に授かった才能を発揮する。
海外では飛び級や早期入学などギフテッドに対応したさまざまな教育プログラムが実施されている。一方、日本では、ギフテッドを念頭に置いた支援はまだ十分とは言えない。
文部科学省は2021年に有識者会議を設置し、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」への指導・支援のあり方について検討をスタート。教員向けの研修パッケージの作成や指導・支援に関する実証研究を本格化させている。
当事者が抱える「困り感」
ギフテッドは高い知性や飛び抜けた才能面に注目されがちだが、「“困り感”を抱えているケースも多い」と村松さんは言う。
自身も学習面では、小5の時に中3で学ぶ数学の内容を理解するなど高い知性を持っていた。だが、強すぎる感受性や刺激を増幅して受け取る特性があり、周囲になじめず孤立感を覚えていた。
子どもの頃、韓国の人気アイドルの話題で盛り上がる友人らの輪の中で、表面上は話を合わせつつも、頭の中では韓流ブームによる日韓経済への波及効果について考えを巡らせていた。合唱コンクールで入賞した時には周囲が驚くほど喜びを爆発させたり、戦争をテーマにした授業ではひどく気持ちが落ち込みしばらく引きずったりした。
自身の発言で周りが静まりかえってしまうことがあり、関心や考えの深さについて他人との違いを感じていた。勉強も、学校では習っていないことを勝手にやってはいけないと考え、学年相当の教材や本にしか触れないようにしていたという。
「どうして私はみんなと同じように楽しめないのだろう」「学校は楽しいはずだ。楽しめない自分が悪い」と思い悩み、適応しようと努め続けた。
「頑張りすぎて」不登校に
中学2年の秋、友人とのささいなトラブルをきっかけに不登校になり、中3の4月に転校するまで学校に通えない日々が続いた。当時はギフテッドという言葉も知らず、なぜ学校に行けないのか分からなかったという。
社会人3年目を迎えた21年、知人の勧めで受けた知能検査でギフテッドの特性を持つことを初めて知った。「高IQ(知能指数)なのに、どうして人生がうまくいかないのだろう」と思った。
詳しく調べていくと、周囲のムードから浮いてしまい、ついていけなくなる「浮きこぼれ」をしないように過剰に適応しようとしてきた点や、感情や行動を過度に抑えたり表してしまったりする点も特性の一つだと知った。
「過剰に頑張りすぎて疲れたことで、不登校につながったのではないか」
自身の経験を基に、同じような子どもたちを支援したいとの思いから、大手サイバーセキュリティー会社から児童発達支援に携わる企業に転職し、オンラインで米カリフォルニア大(UC)サンディエゴ校のギフテッド教育者コースを学んだ。
「3本柱」で包括的に支援
ラグーンには、当事者を含む8人のスタッフが在籍する。未就学~高校生を対象とした1クラス(6人)の「フリースクール」のほか、受験対策や学習支援など子どものニーズに合わせた「個別指導塾」、臨床心理士がその時の参加者に合った取り組みを提案する少人数制の「心理探究セッション」の三つのサービスで、包括的に支援する。
年齢が比較的近いギフテッドの当事者同士で、継続的に交流できる場は少ないという。副代表で医学博士・臨床心理士の沢哲司さん(40)は「今の不安を乗り越えることだけではなく、コミュニティーの中でユニークな自分や相手の理解を深めることは今後の人生に関わる大切なこと。単発の支援ではなく、成長に応じて中長期的に伴走できるのが強み」と話す。
問い合わせは、ラグーンのホームページ(https://gifted-lagoon.com/)まで。【近藤綾加】