上智、順天堂大でも 急速に進む高大連携 中学受験への影響は

大沢瑞季
大沢瑞季
上智大のキャンパス=同大ホームページより
上智大のキャンパス=同大ホームページより

 上智大、東京女子大、芝浦工業大、順天堂大……。これらは、2023年に私立中高一貫校との連携協定を結んだ大学だ。大学教員による出張講座やキャンパス見学の受け入れなど教育内容で連携するほか、大学入学の推薦枠を設けるケースもある。中学受験の学校選びにも少なからず影響を与えそうな高大連携。なぜ今、急速に進んでいるのか。【大沢瑞季】

上智大が異例の約50校と高大連携

 上智大は23年、横浜雙葉(ふたば)(横浜市)、湘南白百合学園(神奈川県藤沢市)、清泉女学院(同鎌倉市)、福岡雙葉学園(福岡市)、不二聖心女子学院(静岡県)など全国計48のカトリック校と協定を結んだ。

 名門大学がこれほどの規模で高大連携協定を結ぶのは異例だ。高大連携担当の副学長、西澤茂教授は「優秀な学生の早期確保というよりは、カトリック教育を通じた人材育成が一番の理由」と話す。

 大学教授による模擬授業や、海外ボランティアツアーなどで大学生と高校生の交流を促す。「受験偏重から脱却し、社会に関心を持ち、行動を起こすような意識を中高時代からしっかりもってほしい」というメッセージを込める。

 協定締結による上智大への推薦枠はいずれの高校にも設けておらず、「入試で有利になることは一切ない」という。

 一方、立教大は9月、香蘭女学校(東京都品川区)からの推薦進学枠を97人から160人に増加した。以前から協定を結び、年々進学枠を増やしていたが、160人は香蘭女学校の1学年の定員と同数で、ほぼ全員が立教大へ進学できることになる。

 また東京女子大は11月、東京女学館(渋谷区)、三輪田学園(千代田区)、普連土学園(港区)との協定を発表。これまで締結してきた学校と合わせると協定校は計12校となった。

 協定校の推薦枠を設けているほか、探究学習への協力や出前授業などを実施する。高大連携担当の副学長、樋脇博敏教授は「高大連携による交流を通じて、顔の見える関係にある生徒が入学してくれることを望んでいます」と話す。

医療系、理工系の大学も

順天堂大による高校生への講義の様子=同大ホームページより
順天堂大による高校生への講義の様子=同大ホームページより

 医学部、医療看護学部などがある順天堂大は、23年度から高大連携に一段と力を入れ、桜蔭(文京区)や本郷(豊島区)など計26校と提携を結んでいる。

 医学部の推薦枠は設けていないが、さまざまな学部の教員による出張講義やキャンパス見学などを行っている。

 「例えば、成績がいいから医学部を目指すのではなく、生徒に明確な目的を持ってもらい、入学後のミスマッチを防ぎたい。中高時代から大学の授業内容や雰囲気を感じてもらえば、進路を決める材料になるのでは」

 そう話すのは、順天堂大アドミッションセンター事務室の担当者。高校側からは想像以上に歓迎されているといい、「強いニーズを感じています」。

 芝浦工業大は12月、実践女子学園(渋谷区)との連携協定を発表。これまでも山脇学園(港区)、昭和女子大付属昭和(世田谷区)などと協定を結んでおり、夏休みに大学の研究活動を体験できるサマーインターンシッププログラムに女子生徒を受け入れてきた。

 24年度入試からは、協定校を対象とした推薦枠も設けている。入試・広報連携推進部の杉山修部長は「理系分野は女子学生が少ないという状況を是正していきたい」と話す。

 医学部、薬学部、看護学部などがある北里大は11月、順天(北区)と法人合併に向けた協議を開始する基本合意書を締結した。順天によると、26年度から付属として大学への内部進学が始まる見込みで、対象となる学部や人数は未定という。

 他にも北里大は23年だけで、東京や神奈川の計6校の私立女子校と協定を結んでいる。

高大連携で一躍注目校になった私立校も

 三輪田学園は、15年度から法政大と高大連携してきたが、23年度から内容を拡充。従来の指定校推薦とは異なり、生徒の志望に応じて学部学科を選択できる協定校推薦により、30人程度の進学枠ができた。

 高校在学時から、人工知能(AI)やデータサイエンスなどを学ぶ大学の授業を聴講でき、入学後には単位として認定される。高校教員と大学教員による連携講座も開講している。

 これに伴って三輪田学園の志望者数は上昇しており、24年度の中学受験でも女子の最注目校となっている。

目立つ女子校との連携

安田教育研究所の安田理代表=東京都千代田区で2020年9月14日、武市公孝撮影
安田教育研究所の安田理代表=東京都千代田区で2020年9月14日、武市公孝撮影

 安田教育研究所の安田理代表によると、分野的には特に医療系・理工系の大学が、私立女子校と提携を結ぶ傾向があるという。

 医歯薬看護系の学部は、以前から志望する女子生徒が多く、親和性が高い。安田さんは「女子校は、近年共学志向が強いため、生き残りのアピール材料として高大連携に取り組む側面もあるでしょう」と話す。

 一方、理工系の大学が私立女子校と締結する例も多いという。女子の入学者を増やしたい大学、高校側双方のニーズがマッチしたといえる。「社会が理系人材を求めていることも背景にある」と話す。

「双方の生き残り戦略」 どちらにもあるメリット

 急速に進む少子化で、入学者の確保に危機感を抱く大学や私立中高にとって、高大連携は双方にメリットがある。

 安田さんによると、大学側のメリットは、模擬授業などを通じて大学で学ぶ教育内容に関心を持ち、親近感を抱いてもらうことで、学生の安定的な確保につなげること。また、中高側にとっては、授業の充実や進学先の保証で、生徒募集につながることが期待できるという。

 安田さんは「高大連携には、両者の生き残り戦略という面がある。今後もますます増えていくでしょう」と見ている。

Related Posts

関連記事

Share
CONTACT
記事の感想を送る