100%総合型という挑戦
「学力不足の学生が増える」「格差社会が加速する」――。東北大が昨年、入試を100%総合型選抜へ移行する構想を明らかにすると、ネット交流サービス(SNS)では懸念する声があがった。実現への道筋をどう描くのか。理事・副学長の滝澤博胤(ひろつぐ)教授に聞くと、現状の大学入試に対する強い危機感を口にした。
東北大は昨年9月、国際卓越研究大への認定を目指す過程で、25年後の姿として上記の構想を表明。東北大はAO入試と呼ぶ総合型選抜を2000年に開始し、23年度は入学者の3割を占める。なぜ総合型選抜を重視するのか。滝澤教授は「大学はアドミッションポリシー(求める学生像)に沿って選抜を行います。でも、果たして筆記試験だけで評価できるのでしょうか? 私は大きな疑問だと思っています」。
東北大のアドミッションポリシーには、21世紀の社会課題に対し研究者として真剣に取り組み優れた貢献をしようとする志▽その志を実現する固い意志▽高水準の学力――などと記載されている。筆記試験は学力を測るものさしだが、意欲や熱意は評価しきれない。だから東北大は、独自の筆記試験や共通テストを課した上で、面接などを行うAO入試を拡大してきた。
また滝澤教授は「今の一般選抜が教育格差を生み出している」とも指摘する。現在、東北6県からの東北大入学者は全体の3割。以前は約半数いたが、ここ10年で一気に減り今年度はついに3分の1を下回った。首都圏からの学生が増えている。
「一般選抜を続ければ、恐らく地方の高校生は入ってこられなくなる。東北大にふさわしい学力は当然必要だが、今のやり方では見落としてしまう地頭のいい子をきちんと見つけられる選抜にしたい」
1点刻みの筆記試験は公平公正だと考えられてきたが、実際は育った環境が影響し、試験問題が変われば生徒の順位は入れ替わる。「果たしてそれが本当に公平公正なのか。ある水準の学力をしっかり見極めた上で、プラスアルファの部分で生徒が勝負できるようにしたい」
また、滝澤教授はこうも明かした。「国籍もバックグラウンドも違う学生を受け入れようとしたら、今の入試制度では不十分だというのが出発点にある」。日本の18歳人口は減少している。世界から優秀な学生を受け入れるには、日本語の筆記試験がある一般選抜が壁になる可能性があるからだ。
欧米の大学のように、高校時代の成績や活動実績を面接や小論文などで評価する総合型選抜にシフトすることで、海外から優秀な学生を呼び込みたいという。「日本の大学だけ固有の試験を課していたら、他国へ留学生が流れてしまうのは当然」。25年後には学部の留学生比率を現在の2%から20%に引き上げ、全て英語で学ぶコースも増やす。
「AO入試に対しては、世間の誤解があります」。滝澤教授が懸念するように、学力軽視という批判はある。だが東北大の場合は「AO入試の方がハードルが高い」。毎年AO入試で不合格となったものの、一般選抜に再チャレンジして合格を勝ち取った生徒が約300人いるという。
追跡調査でも、AO組の学生の卒業時のGPA(成績評価)は、一般選抜の学生より高い。「卒業後の進路満足度」「大学で学んだことの総合満足度」なども上回る。「今の知識偏重で詰め込み型の入試では、大学入学が一つのゴールになってしまう。一方、AO組は大学でこれを学びたいと目的意識を持って入ってくる。大学入学がスタートだと捉える生徒が、そのまま最後まで強いのでしょう」
また「留学や課外活動などAO対策にお金を掛けられる家庭が有利」という批判もある。滝澤教授は「ここにも誤解がある。突出した経験があるだけでは、評価されない。外形的な活動実績や内申点は重視せず、その経験を通じて自分がどんな役割を果たし、経験から得たものをどう生かせるかを評価します」。
「今の時点では、AO入試は選抜の最適解」。そう話す滝澤教授には、日本の大学入試に一石を投じたいという思いがある。「将来的には入試という言葉をなくしたい。あくまでも入学試験は選抜のツールの一つ。いろんなスタイルが出てきてほしい」。大学入試はどうあるべきか。東北大の挑戦は、現状に対する一つのアンチテーゼなのかもしれない。【デジタル報道グループ・大沢瑞季】