「お帰り」が言いたくて 専業主婦として生きる私の幸せ
外で頑張って帰ってくる子どもたちを、玄関で出迎えてあげたい――。両親共働きの家庭で育った岩井はるなさん(仮名、41歳)=東京都在住=は、学生の頃から専業主婦になると決めていた。常に自分のことは後回し。習い事や塾の送迎に奔走する毎日だ。「これが私にとって、一番幸せ」という岩井さんの生き方とは。【市川明代】
絞った雑巾を3本常備
午前5時半。隣で寝ている小学2年の次男(8)につつかれて、目が覚める。「おはよう、お天気良さそうだね。よし、今日も頑張ろう!」
朝は、部屋の雑巾がけから始まる。一戸建ての3階から1階へ。階段の隅も、リビングの家具の下も、くまなく磨く。
固く絞った雑巾を3本、いつでも使えるように部屋の隅に常備している。「1日に20回は雑巾絞りしてます。とにかく、きれいにするのが好きなんです」。そうじ機は使わない。「結局、細かいゴミが残るし、信用できない」からだ。
でも最近、ちょっとした異変があった。毎日の雑巾絞りが原因でけんしょう炎になってドクターストップがかかり、初めてシート式のフローリングワイパーを導入したのだという。岩井さんにとっては、ちょっぴりふがいない出来事だ。
6時。前夜に盛り付けたサラダを冷蔵庫から取り出し、お手製のオレンジドレッシングをかける。定番の卵焼きは、私立中に通う長男(13)のお弁当の分とあわせて多めに作る。
6時20分。図鑑を眺めていた次男が、ダイニングテーブルの上でドリルを開く。幼稚園の年中の頃から欠かさず続けさせてきた、朝の10分学習。なんとなくやる気のなさそうな日は、こう言って聞かせる。
「いいのかなー。今日やらないと、明日の分が増えちゃうよ。ママだって、翌日の準備が面倒になって投げ出したくなることもある。でもさ、そういうときは必ず、次の日に後悔するんだよ」
止まっていた次男の手が動き出す。効果てきめんだ。
6時半。長男が英語のリスニング学習を終えるのを待って、3人で朝ご飯。7時過ぎにようやく、夫(41)が起き出してくる。次男はその頃には食事を終え、飼っている昆虫の世話を始めている。ヘラクレスオオカブト、ニジイロクワガタ、パプアキンイロクワガタ……。いずれも、祖父母や父親からのプレゼント。約束通り、ちゃんと自分で世話をしている。
「じゃ、行ってきまーす」。身支度を整えた長男が、部屋から出てくる。服装に乱れはないか、表情に変わった様子はないか。玄関前で一つ一つ確認して、笑顔で手を振る。
「元気がなさそうだったら、手に持ってるトングをパクパクさせて、『ほらほら、おいしそうなお尻を食べちゃうぞー』ってやってみたり。とにかく笑わせます」
全員を送り出したら、一息入れる間もなく、残りの家事を片付ける。何より重要なのが、夕飯の支度だ。ママ友とのランチタイムまでに、全て終わらせなければ。
「理想の主婦」は義理の母
岩井さんは、大阪府出身。商社マンだった父は、単身赴任で家にいないことが多かった。母は介護福祉士で、いつも帰りが遅かった。
年子の兄、妹と3人きょうだい。学校から帰ると、家には兄か妹がいた。だから話し相手には困らなかった。でも……。
中学生の時、ブラスバンド部の全国大会でクラリネットのソロ演奏を任されることになった。「選ばれたのがうれしくて、こんな時にお母さんが家にいたら、すぐに報告できるのになと、ちょっぴり寂しく思ったのを覚えています」
母親が帰りを待っていてくれる友人たちがうらやましかった。「高校生のころから『結婚したら、絶対に専業主婦になろう』と思うようになりました」
24歳の時に…
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